意見表明

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「全国一律最低賃金制度の実現と,最低賃金引上げに伴う中小企業への充分な支援とともに,兵庫県地域別最低賃金の大幅引上げを求める会長声明」

2022年(令和4年)6月22日
兵庫県弁護士会
会 長  中 上 幹 雄

 

第1 声明の趣旨

1 厚生労働省に対し,地域間で格差のない全国一律最低賃金制度を実現するとともに,最低賃金引上げに伴う中小企業への充分な支援を直ちに講じるように求める

2 兵庫県地方最低賃金審議会に対し,中央最低賃金審議会の答申にかかわらず,兵庫県地方最低賃金の大幅な引上げを答申することを求める

第2 声明の理由

1 2011年における兵庫県と東京都の最低賃金格差は,739円と837円で98円であったが,2022年には兵庫県と東京都の最低賃金格差は928円と1041円で113円となり,10年間で1.15倍以上に拡大した。

 最低賃金の高低と人口の転入出には強い相関関係があり,最低賃金の低い兵庫県の経済が停滞し,地域間の格差が縮まらない状態にある。特に,兵庫県は,2021年の転出者が転入者を上回る転出超過が日本人に限ると6220人と全国最多であり,特に首都圏1都3県への転出に全く歯止めがかかっていない地域である。このまま,兵庫県と東京との最低賃金の格差が放置され,拡大し続ければ,高収入で,質の高い労働を求め,多くの県民が兵庫県から首都圏に流出することとなる。

 最近の調査では,地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費は,多くの地方で自動車の保有を余儀なくされることもあり,都市部と地方の間で,ほとんど差がないことが確認されている。首都圏への労働力流出を防ぎ,地域経済の活性化のためには,生計費に地域間格差がない以上は,現在の地域間格差を発生させる目安制度から全国一律最低賃金制度に変更するほかない。

2 海外の最低賃金額について,フランスでは,2021年1月に10.25ユーロに引き上げられたが,さらに同年10月から10.48ユーロに引き上げられた。ドイツでは,2021年7月に9.60ユーロに引き上げられたが,2022年1月に9.82ユーロとなり,同年7月に10.45ユーロへ引上げとなる。さらに,同年10月から12ユーロに引き上げることについて国会で審議中である。イギリスでも,2021年4月から23歳以上の労働者の最低賃金が8.91ポンドに引き上げられたが,さらに2022年4月から9.5ポンドに引き上げられるなど,欧州では多くの国で,最低賃金の段階的な大幅引上げが実現した。

 これに対し,兵庫県の最低賃金額は928円であり,フルタイム(1日8時間,週40時間,月173時間)で働いたとしても,月収約16万0544円,年収約193万円弱に止まる。ロシアによるウクライナ侵攻の影響もあり,食料品や光熱費など生活関連商品,サービスの価格が急上昇し,労働者の生活が今まさに脅かされ続けている。そもそも,最低賃金は,「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されず,直ちに,全ての労働者の生活を保障するため,今年度の兵庫県地方最低賃金は,大幅引上げの答申が必要である。

3 最低賃金の引上げにあたっては,最低賃金未満の賃金で雇用させる事業者数や引上げた場合に影響を受ける事業者数などの数値を過度に考慮する必要はなく,労働者の労働条件の改善,生活の安定を謳う最低賃金法の目的をふまえ,今まさに働いている人々の実情を汲み取って決定されなければならない。

 中小企業が最低賃金の引上げに不安を抱えている原因は,厚生労働省の支援が不十分であることに帰する。業務改善助成金の制度等は存在するが,実際に支援されるか不透明なまま,事業者が設備投資を行わなければならない制度であるため,利用件数はごく少数にとどまり続けている。この現状は,事実上,国が最低賃金の引き上げによる負担を中小企業に転嫁させ続けてきたとの評価を免れないものである。

 国は,我が国の経済を支えている中小企業が,最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行えるように,現在の「業務改善助成金」制度にとどまらず,社会保険料の事業主負担部分の免除・軽減を始めとした社会保険料や税の負担軽減策など充分な支援策を直ちに講じるべきである。

4 以上のとおり,当会は,厚生労働省に対し,地域間で格差のない全国一律最低賃金制度を実現するとともに,中小企業に対して,社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減策などの充分な支援を直ちに講じるように求めるとともに,兵庫県地方最低賃金審議会に対し,中央最低賃金審議会の答申にかかわらず,兵庫県地方最低賃金の大幅な引上げを答申することを求める次第である。

以上

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