意見表明

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旧優生保護法裁判 大阪高裁逆転勝訴判決に関する会長談話

2023年(令和5年)3月27日
兵庫県弁護士会
会長 中上幹雄

 

 2023年3月23日、大阪高等裁判所は、旧優生保護法による強制不妊手術を受けた被害者(控訴人)らが国に対して損害賠償を請求した事件で、一審判決を覆し、国に対し控訴人ら3名にそれぞれ1650万円、総額4950万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。

 判決は、旧優生保護法の優生条項の、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」という立法目的が、極めて非人道的であって、個人の尊重を基本原理とする日本国憲法の理念に反することは明らかであるから、旧優生保護法の優生条項は、憲法13条、14条1項に明らかに違反するものであると判示しました。

 その上で、人格価値の平等を保障する日本国憲法が施行された直後であるにもかかわらず、立法機関である国会を構成する国会議員は、日本国憲法の保障規定の趣旨を理解せず、逆に不良な子孫の出生防止を公益目的として、人格価値の平等に反して特定の障害または疾病を有する者に特別の不利益を与える内容の旧優生保護法を全会一致で制定したものであることを指摘し、そのような立法行為は、当時の特殊な社会情勢と国民意識などの背景事情を踏まえても、違法性が極めて高いと言わざるを得ないと断罪しました。

 そして、そのような憲法上の権利等を違法に侵害することが明白な旧優生保護法を成立させた以上、憲法尊重擁護義務を負う国会議員には、制定当時から、少なくとも同法の目的条項や優生条項を廃止し、優生手術を受けた者に対して補償する責任があったというべきであるとしました。

 にもかかわらず、国が、同法を合憲の法律として平成8年まで存続させ、平成8年に優生条項等を削除し、平成31年になってようやく一時金支給法を制定したとはいうものの、今も、優生条項の憲法違反を認めようとせず、除斥期間の適用を主張するなどしてその責任を否定し続けていることを指摘し、「被控訴人が優生条項を憲法の規定に違反していると認めた時、又は優生条項が憲法の規定に違反していることを最高裁判所の判決により確定した時のいずれか早い時期から6か月を経過するまでの間は、除斥期間の経過による効果は発生しない」と判断しました。

 当会は、裁判所が、被害者の旧優生保護法による深刻な被害に向き合い、これまでの被害者勝訴判決の内容よりもさらにふみこんで、国がいまだに責任を認めようとしない姿勢を糾弾し、人権の砦としての役割を果たしたことを、高く評価します。

 そもそも、旧優生保護法で公益目的とされた「不良な子孫」とは一体何なのでしょうか。我々はみな同じ人間であって個人として尊重されるべきもので「不良」などという言葉には大いに違和感を覚えます。裁判所が指摘したとおり、旧優生保護法の立法目的は個人の尊重を基本原理とする憲法の理念に明らかに反するのです。

 にもかかわらず、このような憲法の基本理念に反する法律が、立法当時、公益の名の下に全会一致で制定され、平成8年まで優生条項は削除されず、現在まで被害を受けた方たちに何らの補償もされてこなかったのです。

 これまでの長期間にわたる裁判闘争の経緯に鑑みれば今回の判決は高く評価するに値する判決です。ただ、被害者らの権利を認めるのに、これほどの期間を必要とせねばならなかったのか、司法機関としての裁判所の責任も重いし、また、我々弁護士も在野法曹として、少数者の声に真摯に耳を傾け、もっと早期に声を上げるべきではなかったかと反省しなければならないと思います。

 被害者の一人は「待つ時間が長過ぎます。これ以上待つことはできません。一刻も早く解決して欲しいという気持ちでいっぱいです。」と話しています。

 提訴から5年、兵庫の原告5人中2人が、今日の勝訴判決を聞かずに他界されました。高齢の被害者に、残された時間は多くはありません。

 国はこれ以上、裁判で争い続けることはやめるべきです。

 当会は国に対し、今日に至るまでの国の姿勢に対する裁判所の判断を真摯に受け止め、全面的な解決に向けて舵を切って、長年にわたって苦しめられてきたすべての被害者に一刻も早く謝罪と賠償を行うことを強く望みます。

 誰もが人間としての尊厳を保ちながら、一人一人が大事にされる差別のない社会に向けて、当会はこれからも努力を尽くして参ります。

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