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重度のうつ病の妻と離婚できるか-療育費など具体提示して

 神戸新聞2017年12月20日掲載
執筆者:平田 啓基 弁護士

妻と結婚しましたが、結婚してから妻が重度のうつ病だと知りました。妻と離婚することはできますか?また、損害賠償請求はできないでしょうか?

 民法は配偶者が強度の精神障害になり、回復の見込みがないときは、他方の配偶者は離婚を請求することができると定めています(第770条第1項第4号)。しかし、夫婦の一方が不治の精神障害になったということだけで離婚を認めると、その配偶者を看護する人がいなくなり、その人の生活環境が劣悪なものになりかねません。

 そこで判例では、一方の配偶者が強度の精神障害になり、回復の見込みがない場合でも、そう簡単に離婚請求できないようにしています。離婚を求める配偶者が、精神障害を患った配偶者の離婚後の療養、生活などについてできる限りの「具体的方途」を示しある程度、その見込みが立ってからでなければ請求は認められないとしています(最高裁昭和33年7月25日判決)。

 ここでいう「具体的な方途」ですが、夫が、精神障害のある妻の過去の療養費を全て支払い、将来の療養費についても可能な範囲で支払うとの意思を表明したケース(最高裁昭和45年11 月24日判決)があります。

 また、夫が、精神障害の妻が離婚後に生活保護を受けて療養生活を続けられるよう措置を講じる一方、妻の要望にこたえ、離婚後の面会を約束したケース(東京高裁昭和58年1月18日判決)などもあります。

 本件も単に妻が重度のうつ病であるというだけでは夫の離婚請求は認められません。夫が、妻の離婚後の療養費を支払うなどして離婚後の妻が劣悪な生活を送ることにならないよう具体策を講じることが必要です。

 次に、妻のうつ病を理由に夫が妻に損害賠償請求できるかですが、通常はこのような請求は認められません。夫から妻に損害賠償請求をするには、不法行為(民法第709条)に該当しなければなりませんが、妻がうつ病というだけでは違法性はなく、不法行為とは言えません。

 従って、本件でも、夫から妻への損害賠償請求は認められないということになります。

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