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2019年

相続遺産の一部分割を兄が持ちかけてきた-今後の約束事決め紛争回避-

 神戸新聞2019年2月18日掲載
執筆者:正木 耕平弁護士

 父が亡くなり、複数の不動産があります。相続人は母と兄と私です。兄からは不動産のうち、一つの不動産をまずは兄名義に分割しようと言われていますが可能ですか。また、何か不利にはならないでしょうか。

 結論から言うと、相続人全員の合意があれば遺産の一部分割は可能です。というのも、遺産分割協議の長期化が見込まれる場合や納税資金が手元になく納税ができない場合など、取りあえず遺産の一部を先に分割しておきたいといったケースはよくあり、特段これを否定する必要もないからです。

 実際、実務上でも一部分割をすることはあります。しかし、一部分割をする際には、遺産分割協議書に今後の分割方法などに関する約束事もしっかり盛り込んでおかないと、後々紛争を招くことになってしまいます。

 例えば、最初に一部分割として1人の相続人にまとまった遺産を分割したとします。その際作成された遺産分割協議書に、その一部分割が残余財産の分割割合に影響を及ぼすのかどうかを記していなければどうなるでしょうか。

 改めて残りの遺産について相続人の間で協議をする際に、一方では一部分割を受けた相続人は、一部分割は残余財産の分割割合に影響を及ぼさないと考えている可能性があります。すなわち、一部分割した分は分割協議から除外され、残余財産についてのみ全相続人で均等に分配されるものと認識しているということです。

 他方でその他の相続人は、一部分割は残余財産の分割割合に影響を及ぼす、と考えているかもしれません。すなわち一部分割分も考慮に入れて全遺産を均等に分け、一部分割を受けた相続人は、同一部分割分を差し引いたものを受け取ると認識している可能性もあります。そうなると、互いの認識に大きな相違があり、争いに発展しやすいのです。

 従って、本件のように、まずは―つの不動産を兄名義に分割すること自体は他の相続人の同意があればできますが、紛争を避けるためには、この一部分割が他の不動産の分割割合に影響するかどうかという点まで記しておく必要があるということです。後々紛争になりうる点については、しっかりと約束事を決めておきたいですね。

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