神戸新聞2023年8月2日掲載
執筆者:曽我 宣明 弁護士
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先日、自転車で走行している時に歩道で歩行者の方と衝突してしまいました。そのまま帰ってしまったのですが、その対応を責められ、損害賠償を求められています。どうすればよかったのでしょうか。
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自転車の事故については、自動車よりも深刻な結果につながりにくいことから、事故のことを少し軽く見てしまう方も多いと思います。しかし、自転車は、道路交通法上、軽車両として取り扱われ、事故が起きた際の義務についても厳格に定められています。
例えば、相談のケースでは、事故後、被害者を救護する義務や、事故の発生を報告する義務があり、これに違反すると、懲役刑に処される恐れもあります。また、刑法上も過失傷害罪過失致死罪、重過失致傷(致死)罪に問われ、同じく懲役刑に処せられる恐れもあります。
また、自転車事故であったとしても、被害者に生じた損害、具体的には治療費や洋服、スマートフォンなどが破損した場合の修理費や買い替え費用といった物的な損害を賠償する責任を負います。
それだけではなく、慰謝料や被害者が仕事を休んだ場合の休業損害なども賠償する責任が生じます。神戸地裁が9500万円以上の支払いを命じた事例もありました。
被害者に過失があった場合は、過失の割合に応じて賠償をします。しかし、今回は、歩道上の事故ということになりますから、基本的に被害者の過失はないということになります。このため、被害者に生じた損害のすべてを賠償する責任を負うことになります。
今回のケースでは、事故発生後に被害者にけがないかを確認して、必要に応じて救急車を呼ぶなどの対応をとるとともに、110番通報をして、事故の発生を報告し、自身の連絡先を被害者に伝えた上、後日損害賠償の金額や支払方法などについて協議をするというのが最も妥当な対応だと思われます。
結論的には、事故を起こさないように注意をして運転をするとともに、事故に備えて、保険に加入しておくことが、リスク管理の観点からはお勧めということになります。兵庫県では、自転車損害賠償保険などへの加入が義務づけられています。