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貸借建物明け渡しの立ち退き料はいくら?-明確な基準なく賃貸人と交渉-

神戸新聞2017年1月18日掲載
執筆者:宮地 重充弁護士

 私は、建物を賃借してカフェを経営していますが、賃貸人から建て替えのため、建物を明け渡してほしいと連絡がありました。立ち退き料を支払うと言われていますが、額はどのようにして決められるのですか?

 立ち退き料についてはまず、借家人であるあなたが賃貸人と話し合うことになります。賃貸人の提示する立ち退き料に納得がいかなければ、あなたは建物の明け渡しを拒まざるをえません。その場合、賃貸人は、諦めるか、立ち退き料を増額して交渉を続けるか、あなたに対して建物明渡請求訴訟を提起することになるでしょう。

 訴訟になれば、建物を明け渡せという判決、明け渡さなくてもいいという判決、立ち退き料を決め、それと引き換えに明け渡せという判決が出ます。

 相当な額の立ち退き料とは、いくらになるのでしょうか。例えば家賃の数カ月分といった明確な基準や相場はなく、事例ごとに個別具体的な事情を考慮して決めるしかないのです。

 なぜなら、法律上、立ち退き料の提供は、賃貸借を解約するために必要な条件である「正当の事由」を補完するものにすぎず、「正当の事由」として他にどんな事情があるかによって立ち退き料の相当額も違ってきますし、不要となる場合すらあるからです。

 今回の相談でも、建物が老朽化により倒壊のおそれがあるから直ちに建て替えの必要があるという場合と、土地の有効活用のために古い建物を取り壊して、新しいビルに建て替えたいという場合では、立ち退き料の相当額は違ってきます。

 また、相談者の経営するカフェが建物の明け渡しにより事実上廃業に追い込まれる場合と、他の店舗で経営を続けることができる場合でも違ってくるでしょう。このように、相当額の立ち退き料はさまざまな事情により変動します。

 そこで、賃貸人が建物の明け渡しを求める理由を詳しく聞き、また、あなたが建物の明け渡しによってどのような損害を被るかも考えて、あなた自身が納得できる立ち退き料の金額を検討する必要があります。交渉の方法なども含めて弁護士ら専門家に相談するのもよいでしょう

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