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2019年

夫の所在が不明でも離婚できるか-原因の立証などで提訴可能-

 神戸新聞2019年6月5日掲載
執筆者:岡部 将吾弁護士

 結婚して20年になります。夫は10年前に「性格が合わないから出て行く」と言い残して家を出てしまいました。現在どこに住んでいるのか分かりません。夫の所在が不明でも離婚はできますか。

 夫の所在が不明な場合でも、必要な手続きや要件を満たせば離婚することができます。本件では、夫の所在が不明であり、①離婚協議と②離婚調停を行うことは困難ですので、③離婚訴訟の提起を検討することになります。なお、離婚訴訟を提起するためには、先に②離婚調停の申し立てを行うのが原則です(調停前置主義)。しかし本件のように事件を調停に付するのが適当でない場合には、例外的に直ちに離婚訴訟を提起することが認められる場合があります。

 所在不明の夫に対する離婚訴訟の注意点として、訴状を送達するために公示送達という方法を利用することが挙げられます。公示送達とは、被告の住所・居所が分からない場合に裁判所書記官が訴状を保管し、いつでも交付する旨を裁判所内の掲示板に掲示する方法です。掲示後2週間が経過すれば、夫に訴状が送達されたものと扱われます。

 次に、離婚訴訟で離婚を認めてもらうためには、離婚原因(民法770条1項各号)が認められる必要があります。

 本件において、夫の所在が不明であるだけでなく、3年以上生存も死亡も確認できない状態が続いている場合であれば、離婚原因のうち「配偶者の生死が3年以上明らかでないとき」(同条同項3号)に該当します。また、夫が民法752条の同居・協力・扶助義務を履行しておらず、そのことに正当な理由がなければ、「配偶者から悪意で遺棄されたとき」(同条同項2号)に該当します。加えて、婚姻生活全体の一切の事情を考慮し、婚姻関係が破綻しており、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(同条同項5号)があると認められた場合にも、離婚請求が認容されます。

 なお、離婚訴訟において、原告は、被告が期日に欠席している場合でも、上記の離婚原因があることを、立証しなければなりません。 以上の通り、本件では、公示送達の利用、離婚原因の立証等が必要となるので、一度弁護士に相談されることをお勧めします。

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