神戸新聞2025年5月21日掲載
執筆者:山口 直也 弁護士
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遠方の役所から「あなたの親戚が生前住んでいて、現在空き家になっている建物の屋根瓦が落ちそうなので、相続人として対応してください」 という趣旨の手紙が届きました。 顔も知らない親戚なのですが、私が修繕しないといけませんか。
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まず、あなたは本当に相続人なのでしょうか。相続人でなければ建物を相続せず、基本的に管理義務を負いません。
具体的には戸籍謄本などにより親族関係を調査し、相続人に当たるか確認します。
相続には優先順位があり、あなたより優先する方がいれば原則としてその方が相続人となります。
ただ、その方が「相続放棄」をしていれば、あなたが相続人になります。相続放棄の有無は、裁判所に確認ができます。
次に、あなたが相続人であったとしても、「相続放棄」という手続きがあります。
「相続放棄」は、被相続人(亡くなった親戚)の最後の住所地の家庭裁判所に、「相続放棄の申述」を行い、認められれば、初め(亡くなった日)から相続人とならなかったものとみなされます。
相続放棄の手続きには期限があり、法律上は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3力月以内」と定められています。
今回のケースで、親戚が亡くなったことを知らず、役所からの手紙で初めて知ったのであれば、手紙を受け取ったときから3カ月以内に手続きをすれば、相続放棄が認められるでしょう。ただし、相続放棄をすると、その親戚のすべての財産を放棄することになります。財産がある可能性もあるので、相続放棄の前に遺産の調査はした方が良いと考えます。
また、相続放棄をしても、「放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」は、管理義務を負います(民法940条1項)。
顔も知らない親戚の建物であれば、「現に占有している」とは考え難いため、管理義務を免れるケースが多いと思われますが、そう受け取られかねない行動をしてしまうと、管理義務を問われる可能性があります。
相続放棄をするなら、原則として3カ月以内という期限も気にしなければなりませんから、判断に迷われた場合は、早めに弁護士などに相談されることをお勧めします。