神戸新聞2025年7月16日掲載
執筆者:土屋 裕司 弁護士
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所属する自治会の役員になりました。引き継ぎをしていたところ、自治会費を管理していた経理担当者が、自治会費を私的に使い込んでいたことが発覚しました。自治会としてどう対応すればいいでしょうか。
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経理担当者に対して民事上(金銭の請求)および刑事上(業務上横領など)の責任追及をして、自治会費の返還を求めていくことになります。
その前提として、まずは事実関係の調査をしてください。通帳や財産目録、収支計算書などの財務関係書類を確認して財産状況を把握したり、金融機関に対して取引履歴の開示を求めて使途不明金がないか確認したり、 関係者への聴き取りをしたりするなど、事実確認を行います。その結果、私的使い込みが間違いないようでしたら自治会の規則に基づいて経理担当者を解任しましょう。
また、さらなる被害の拡大を防ぐため、金融機関への届け出印の変更や口座の凍結など、財産の散逸を防止してください。
次に民事上の責任追及として、経理担当者に対し、使い込んだ自治会費の返還や弁済を求めていくことになります。まずは、返還などを請求する内容を記載した通知書を内容証明郵便で送付し、任意に返還するように交渉を行うことが一般的です。もし経理担当者が任意の返還に応じないときは、裁判で民事訴訟手続きを行います。裁判で勝訴判決を得た後も返還しない場合、経理担当者の財産を強制的に差し押さえ、取り立てることになります。
刑事上の責任追及としては、経理担当者が私的に自治会費を使い込んでいるため、業務上横領罪が成立する可能性があります。自治会として警察に被害届を出したり、刑事告訴をしたりすることになります。被害届を出すときには、事実関係の調査で得られた資料(通帳、財産目録、収支計算書など)が、経理担当者の横領行為を裏付ける証拠になります。刑事事件で有罪などになった場合、刑事事件の資料が、民事裁判の証拠としても使用できます。
今後は、経理担当者を複数選任したり、日常的にダブルチェックをしたりするなど、再発防止策も検討した方が良いでしょう。
返還請求には、裁判手続きなど法的知識が必要ですので、弁護士にご相談されることをお勧めいたします。