神戸新聞2025年9月17日掲載
執筆者:前田 歩 弁護士
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退職するかどうか悩んでいます。実際に申し入れた場合、会社から引き留められるなどして退職できるか不安です。こうしたケースで、「退職代行サービス」を利用する際の注意点があれば教えてください。
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労働者には原則として、自由に退職する権利があります。民法上も期間の定めのない雇用契約を解約したいと会社に申し出た場合、その申し入れの日から2週間で雇用契約は終了すると定められています(民法627条1項)。つまり、会社から引き留められても退職できます。
最近は、本人に代わり会社に退職の意思を伝える退職代行サービスの利用も増えています。
ただし、非弁護士(一般企業や個人)の退職代行サービスを利用する際には注意が必要です。業者によっては、退職日の決定や有給休暇の消化、給与の支払いなどを会社と交渉することがありますが、こうした「法律事務」に該当する行為を、報酬を得て行うことは、弁護士でないとできません。弁護士でない人がこれを行うと、「非弁行為」で違法になります(弁護士法72条)。違法行為を行った退職代行業者には、刑事罰が科される可能性もあります。依頼者本人が直接処罰されることは通常ありませんが、違法な行為に加担することになりかねません。
また、会社が退職代行業者からの通知に応じず、本人に連絡を求めるケースもあります。その結果、退職できなかったり、会社からの連絡を放置した結果、「無断欠勤」扱いされて懲戒処分や損害賠償請求をされるリスクもあります。
退職代行サービスの利用で問題なく退職できる場合もありますが、リスクを回避するため、弁護士に相談することもご検討ください。退職の意思を伝えるだけであれば、退職代行サービスと同程度に安価で行う弁護士もいます。例えば、内容証明郵便による退職届の通知であれば、「(旧)日本弁護士連合会報酬等基準」では「弁護士名の表示なし」で1万~3万円、「弁護士名の表示あり」で3万~5万円程度です。加えて、未払い給与の請求などの法的紛争があったとしても、弁護士であれば、追加費用の可能性はありますが、一貫して対応できます。
退職には多くのケースで法的な問題が絡みますので、弁護士に相談することをお勧めします。