神戸新聞2025年10月1日掲載
執筆者:武部 由香里 弁護士
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介護施設の職員です。80代の入所者Aさん(判断能力なし)の施設費が半年滞納になっています。長男に電話で請求したところ、「父の年金を自分の生活に使った」と言って払ってくれません。どう対応すればいいのでしょうか。
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家族などが高齢者の財産を自分のために使ってしまうケースが増加しています。ご相談の場合、長男によるAさんへの「経済的虐待」の疑いがあります。
「経済的虐待」とは、「高齢者虐待」の一つで、養護者や施設従業員などが高齢者の財産を不当に処分することや不当に財産上の利益を得ることをいいます(「高齢者虐待防止法」)。
「高齢者虐待」には、経済的虐待の他、暴力などの「身体的虐待」、適切な介護を怠る「介護放棄(ネグレクト)」、暴言といった「心理的虐待」、わいせつ行為を含む「性的虐待」があります。高齢者虐待防止法は、「高齢者虐待」を発見した人は市町村に通報しなければならないことや、通報を受けた市町村は調査や高齢者を保護すべきことなどが定められています。
今回は、長男が「父の年金を自分が使った」と話して、施設費を6カ月間滞納しているため、「経済的虐待」の可能性が高く、施設として市町村の高齢者虐待対応の窓口に通報すべきです。市町村長は、調査して「経済的虐待」に当たると判断したら、「成年後見制度」を活用するなどして、Aさんの財産を保護するための対応をします。
成年後見制度とは、家庭裁判所が選任した成年後見人などが、判断能力の欠ける高齢者の方などの財産管理や生活の支援(身上監護)を行う制度です。虐待に当たる場合は、家庭裁判所は、通常、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門職を成年後見人などに選任します。
今回、家庭裁判所が選任した弁護士などが、Aさんの成年後見人になれば、その成年後見人がAさんの財産を管理できるので、今後の施設費はAさんの年金収入などから支払われるでしょう。また、成年後見人は、長男に対し、Aさんへの金銭の返還請求を行うこともできます。
高齢者の保護のため、「経済的虐待」を疑った場合は、躊躇(ちゅうちょ)せずに、市町村や弁護士にご相談ください。