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2025年

選挙期間中、落選目的でSNS投稿 責任は?-虚偽事項公表罪などの可能性

 神戸新聞2025年10月15日掲載
執筆者:森川 裕介 弁護士

7月の参院選の選挙期間中、ある候補者を落選させようと、交流サイト(SNS)にその候補者には妻以外に交際している女性がいることを書き込みました。どんな責任に問われる可能性があるのでしょうか。

 ご質問の投稿については、刑法の「名誉毀損(きそん)罪」(および民事上の損害賠償責任)、公職選挙法の「虚偽事項公表罪」で処罰される可能性があります。
今では、誰でも簡単にSNSへの投稿などで自分の意見を外部に表明できるようになっており、近年、SNSへの投稿に伴う選挙結果への影響や、成立しうる犯罪についての関心が高まっています。
 
 SNSへの投稿は、表現の自由として憲法21条で保障される権利です。表現の自由には、言論活動によって国民が政治的意思決定に関与して民主主義の実現に資するという価値があります。従って選挙期間中の政治的目的による意見投稿は、憲法上の重要な権利の行使であり、基本的に自由です。

 しかし、人は他者や社会と密接に関りながら生活していることから、表現の自由といえども無制限の行使は許されず、一定の範囲内で制限されます。例えば、表現の自由と、他者の名誉権や選挙の自由公正などの利益が対立した場合、後者が優先される形で制限されることがあるのです。

 ただし、選挙期間中の政治的目的での言論活動は特に重要ですから、他者の名誉を毀損する虚偽事項をSNSに投稿したからといって直ちに犯罪が成立するとは限りません。名誉毀損に関しては、公選による候補者に関する事実に関係する場合には、事実の真否を判断し、真実の証明があったときは罰されませんし、仮に真実でなかったとしても相当な根拠に基づいて真実と誤信した場合にも罰されないことがあります。

 今回の投稿について考えると、「妻以外の女性との交際」が真実でない場合、そう信じたことに相当な根拠がなければ名誉毀損罪で処罰される可能性があります。これに対し、虚偽事項公表罪については、当選させない目的で虚偽事項を投稿したのであれば処罰される可能性が高いです。

 SNSへの投稿は重要な権利の行使ですが、刑事上、民事上の責任を負う可能性がありますから、慎重さも要求されます。

 

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