神戸新聞2025年11月5日掲載
執筆者:古本 遙 弁護士
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内縁関係にあり、長年一緒に生活していたAさんがこのほど亡くなりました。Aさんに親族はおらず、遺言もありません。私がAさんの財産を受け取ることはできないのでしょうか。
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亡くなられたAさん(被相続人)の財産は、被相続人が生前に遺言書を作成していなければ、被相続人の法定相続人に相続されます(婚姻関係にある配偶者や子などが法定相続人となります)。内縁関係の方は法定相続人ではないため、今回ご相談の方に財産を渡すというAさんの遺言書がなければ、財産を相続することはできません。
もっとも、相続人がいない場合、「特別縁故者」への財産分与という制度があり、内縁関係の方は、「特別縁故者」に当たる可能性があります。
特別縁故者とは、「被相続人と生計を同じくしていた者」▽「被相続人の療養看護に努めた者」▽「その他被相続人と特別の縁故があった者」-と定められており、遺産の全部または一部を受け取ることができます。そのため、内縁関係の方以外にも、生前に被相続人と同居して同一生計にあった方や、被相続人を献身的に看病されていた方なども、特別縁故者として認められる余地があります。
特別縁故者になり得る方は、家庭裁判所に相続財産清算人の申し立てを行うことができます(ただし予納金が必要になる場合があります)。相続財産清算人は、被相続人の財産と負債を調査し、適切に換価(現金化)・返済などをする役割を担っています。相続財産清算人が換価・返済業務を終えた後もなお財産が残っている場合、特別縁故者になり得る方が財産分与の申し立てを行い、家庭裁判所が特別縁故者であると認めれば、被相続人の財産を受け取ることができます。なお、受け取り金額も家庭裁判所が判断しますので、必ずしも全額を受け取ることができるものではありません(残余財産は国庫に帰属されます)。
特別縁故者の制度は、被相続人が、もし遺言書を作成していたとすれば、自己と特別の関係がある者に財産を取得させるであろうとの考えから設けられています。
特別縁故者として財産を受け取るためには、裁判所の手続きが必要ですので、弁護士にご相談ください。


