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2025年

犬にかまれてけが 治療費請求できるか-飼い主に管理、賠償の責任

 神戸新聞2025年11月19日掲載
執筆者:田中 里奈 弁護士

公園を散歩中、犬にかまれてけがをしました。飼い主はリードを短く持っていなかっただけでなく、スマートフォンを見ていてしっかりと握っていなかったようです。飼い主に治療費などを請求できますか。

 飼い主には犬を適切に管理する責任があるため、治療費などを請求できる可能性があります。
 
 民法718条1項は「動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び(および)性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。」と規定しています。
 
 この規定は、一般の不法行為(民法709条)とは異なり、被害者側が飼い主の過失を証明する必要はなく、飼い主が自己に過失のないこと、すなわち相当の注意をもって犬を管理していたことを証明できない限り、損害賠償責任を免れることはできないとされています。
 
 飼い主が相当の注意をもって管理していたか否かは、犬の種類や性質(大型犬か小型犬か、どんな性格か)、加害の前歴、保管の状況(現場は自宅の敷地内か公共の場か、リードの長さや持ち方に問題はなかったか、通行人と距離を取っていたか)などを総合的に考慮して判断されます。
 
 本件では、人通りが多い公共の場所で、飼い主はリードを適切な長さに保たず、スマートフォンを注視して他人とすれ違うときにリードを引っ張るといった措置を取っていないことなどからすれば、飼い主が相当の注意をもって管理していたとはいえず、飼い主に治療費や通院交通費、慰謝料などを請求できる可能性は高いと思われます。
 
 証拠を残すために、医師の診断書や病院の領収証、けがの程度を示す写真、事故の状況などを保管・記録しておくことが重要です。飼い主が個人賠償責任保険などに加入していれば、保険会社が対応することもあります。必要に応じて、警察への届け出や弁護士への相談を検討するとよいでしょう。
 
 また、「動物の愛護及び管理に関する条例」では、犬が人をかんだ場合、飼い主は直ちに知事に届け出る義務があり、これを怠ると罰則もあります。飼い主が届け出をしないようであれば、被害者から連絡することも可能です。行政が事実を把握することで、再発防止のための指導や管理の徹底が図られることもあります。

 

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