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火災保険および火災共済の現行地震免責条項に関する提言

1996年(平成8年)6月12日

神戸弁護士会

はじめに

 阪神・淡路大震災は、震災後の火災によっても甚大な損害をもたらした。
しかし、損保会社および共済組合は同火災被災契約者に対し、ほとんどのケースにおいて火災保険金・火災共済金の支払いをしていない。
損保会社および共済組合が支払をしない根拠とするところは火災保険約款・火災共済約款上の地震免責条項(地震免責約款)の存在である。

 神戸弁護士会(以下、「当会」という)では、震災後の火災被災者を対象として「地震と火災保険110番」を実施し、その後同110番架電者に対する追跡調査を実施した。
その結果、後記第1にまとめたとおりの火災被災者の実情並びに地震免責条項に関する問題点を把握することができた。
そこで当会は、損害保険各社および各共済組合に対し、以下のとおりの提言を行い、あわせて同監督官庁並びに関連業界団体に対し同提言内容の実現に向けて適切な指導を行うことを求めるものである。

2.復興の基本理念に関し

(提言1)

 今回の震災の経験と教訓をふまえた先駆的な防災モデル都市を実現するにつき、今回の震災の中で何を経験として学び、何を教訓として導くかを具体的に示し、施策の中にこれが反映されるべきである。

 ガイドラインの第1節、復興の基本理念の中で、「機能的で高度に発達した近代都市が、想像を超える自然の力の前でいかに脆弱な一面をもつかを私たちに思い知らせた・・・私たちはこの教訓を真摯に受け止め、都市の機能性の確保を図りつつ、安全でゆとりをもった災害に強い街づくりを進めていかなければならない」としている。
又「今回の震災の経験と教訓をふまえ、先駆的な防災モデル都市として、世界中の都市の模範となる復興・再生を成し遂げる」とする。

 ガイドラインにおいては、災害に強い都市づくり、防災モデル都市となるために、具体的に今回の震災からどのような経験を重視し、教訓を受けとめているかを見るに、交通ネットワークの壊滅的打撃の教訓により交通ネットワークの整備を図るということ、ライフライン寸断の教訓からライフラインネットワークの整備を図る防災力の強い都市づくりのため、防災都市基盤の骨格形成や防災生活圏の構想がだされている。

 しかし、具体的に見れば、ガイドラインの教訓の指摘には重大な欠落がある。例えば、都市間交通網の整備として、ポートアイランド、六甲アイランドへの交通アクセス手段の復興プランとしては、既存のライナーや大橋の早期復旧が指摘されているものの、本来この交通アクセス手段で足り得たのか否かという基本的な教訓は検討されていない。

 又、神戸港の埠頭の壊滅的被害や、六甲アイランド、ポートアイランドの大規模な液状化現象、地盤沈下等、海上の埋め立て都市地盤の安全性について、十分に検討されるべき必要性が生じているが、ガイドラインにおいてこの教訓は具体的に指摘されず、他方では、この点検もないまま、神戸空港の整備という、より大規模な海上都市地盤構想が推進されようとしている。

 少なくとも、海上都市地盤が恒久的な安全都市地盤たり得るのか否か、それが可能であるにはいかなる対策がとられるべきかについて、真摯な教訓の分析がまず必要であり、これが施策に生かされるべきである。

提言事項

  1. 約款文言の明確化
  2. 約款内容の開示・説明の徹底
  3. 地震免責関連事実に関する調査・報告・説明の履行
  4. 地震免責条項の適用基準の明確化並びに運用の明朗化

第1.火災被災者の実情、その他

  1. 阪神・淡路大震災後に発生した火災の発生件数は兵庫県内を中心として合計294件、焼失総面積約66万平米、同建物被害棟数は、合計7474棟(内全焼7050棟、半焼等424棟)、同被災世帯数は9300世帯以上にのぼる。
    火災発生時期は、地震直後に発生したものもあるが、1週間以上経過した後に発生した火災もある。
    火災発生原因については、多くが原因不明とされている。現在も消防署等で調査を続けている例もある。
  2. 以上の震災後の火災につき損保会社及び共済組合等は、地震免責約款の存在を理由に一部のケースを除き火災保険金・共済金の支払いをしていない。
    今回の震災では全国から平成7年12月までに約1730億円の義援金が送られてきたものの、被災者数が膨大であるため被災1世帯に配分された金額は僅かであった。
    このため、被災者の多くが住宅しいては生活再建の目処がたっていない。
    又、ローンにより建築した住宅等が焼失し、多額のローンだけが残り自力で生活を再建する意欲を奪っている例もある。
    被災者が自立し、又、街が復興していくうえで個人の住宅の再建は不可欠である。
    にもかかわらず資金手当がつかず、多くの被災者が住宅等の再築に着工できないでいる。
    火災被災者の多くは火災保険・火災共済等に加入していた。
    火災保険金・火災共済金の支払いがなされるならば、住宅・生活の再建が可能なのである。
    しかし、その支払いがなされていない現状では自立する目処がたてられないでいる。
  3. 当会では、平成7年7月3日、消費者保護委員会と消費者被害救済センターとの共催で、「地震と火災保険110番」(以下、「110番」という)を特設電話2回線にて実施した。
    午前10時から午後4時の短時間の受付時間内に合計53件の電話があり、内44件が阪神淡路大震災後に発生した火災に関するものであった。
    110番架電者の大部分は、損保会社、共済組合に対する不信感並びに不満を表明していた。その内容は、「地震免責約款の存在を知らさ れていなかった」「契約時に地震免責約款の説明がなされなかった」という地 震免責約款の開示・説明に関するもの、「地震直後に火が出たのならともかく、何日も経過してからの原因不明の出火なのに火災保険を支払わないのは納得が いかない」「損保会社は地震免責とそれ以外の火災の線引きをどこでするのか合理的に説明せよ」という地震免責約款の解釈・運用に関するものがほとんどを占めた。
    110番では、担当者の休む間もない程に電話が殺到し、実際に架電してきた人の一部しか応答ができなかった。
    この点からも今回の震災時の火災で被災した火災保険・火災共済加入者の損保会社・共済組合に対する潜在的な不信感・不満が大きなものであることが伺われる。
  4. その後、当会は110番架電者の内火災関連の44名に対し、平成7年12月から平成8年1月にかけて電話による追跡調査(以下、「追跡調査」という)を実施した。
    架電者の内、13名は被災後転居をしたのか確認をしていた連絡先への電話がつながらなかった。
    このため、追跡調査を実施できたのは合計31名であった。
    追跡調査の結果、損保会社及び共済組合が火災被災者に対し火災保険金・火災共済金を支払わない理由を何ら説明していないケースが31件中13件と多数にのぼっていること、又、同説明を行っているケースでも「地震だから支払わない」というような抽象的な説明しか行われていないケースが大部分であり、損保会社・共済組合が当該火災につき、いかなる調査を行い、その結果具体的 ケースにおいて地震免責約款のどの箇所に該当するとの判断がなされたのか等被災加入者が本当に知りたい具体的な報告および説明がなされた例はほとんどなかった。
    「なぜ地震免責なのか、なぜ地震火災だと言うのか、具体的説明が全くなされていない点を第1に損保会社に問い質したい」「地震による火災かどうかの証拠を(損保会社側で)出してほしい。
    証明ができないのなら保険金を支払え」と、この点に関する損保会社・共済組合の対応を指弾する声が圧倒的であった。
  5. ところで、損保会社等は今回の震災時の火災につき全く保険金の支払いをしていないのではなく、一部支払いを行っている。
    例えば、震災2日後の1月19日午前7時頃に神戸市中央区内の三宮で発生した火災では数社が支払いを行っているとマスコミが報じている(神戸新聞、平成7年11月17日、夕刊)。
    又、同一の火災で焼失した地区の一部の被災者にだけ火災保険金が支払われているケースがあるとも公然と言われている(テレビ朝日、平成8年1月21日「サンデープロジェクト」放映)。
    その他、火災保険と同様の地震免責約款がある賠償責任保険の保険金が1月20日と同21日に三宮の百貨店内で発生した盗難事件で支払われていた事実もマスコミ報道されている(朝日新聞、平成7年11月14日、朝刊)。
    ところが、かような支払いを行った損保会社らは、地震免責約款との関係でいかなる判断基準・運用基準に基づいて支払いをしたのかという肝心な点につき説明をしようとしない。
    かような損保会社らの不明朗な対応は、損保会社等に対する火災被災者らの
    不信感を更に増幅させている。
  6. 阪神・淡路大震災後地震保険が改定され同保険の引受限度額が大幅に引き上げられるなどの
    改善がなされた。
    しかし、保険料が高い等の課題が指摘されており、地震保険の加入率の大幅な増加は期待できないと
    言われている。
    兵庫県も低い負担による住宅の建替費用を賄うべく「住宅地震災害共済保険制度」を提唱しているが、実現には至っていない。
    したがって、今後も大規模な地震時に火災が発生した場合、火災保険金・火災共済金の支払がなされるか否かが被災者の住宅および生活を再建するうえで重要なウエイトを占めることには代りがなく、以上の被災契約者側から提起された問題点に対する改善は是非ともなされなければならないと考える。