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神戸市復興計画ガイドラインに関する提言

1995年(平成7年)6月8日

神戸弁護士会 会長 同復興対策本部長 田辺 重徳

1.はじめに

阪神・淡路大震災は、未曾有且甚大な被害をもたらし、被災地の市民生活、産業基盤は壊滅的ともいえる被害を受けた。

 被災者の安全で快適な生活を営む権利の確保を図り、この復興を実現するためには、難問山積する中で、長期の対応を余儀なくされる。

 現在にいたっても避難所の解決が未了であること、中期的に見れば、被災現場の建物解体整地、仮設住宅や仮設店舗等の建設による市民生活の暫定的復興がもとめられること、又この過程で粉塵、アスベスト被害等の二次的健康被害や損壊地盤の崩壊等二次災害発生の防止が図られるべきこと、更に長期的展望もふまえて、防災と住みよい環境を確保する展望をふまえた街づくりの実現、被災地の経済、雇用等生活基盤の復興が図られるべきこと等それぞれの段階における課題について、復興過程で整合性、関連性をもった施策の整備、調整が図られる必要がある。

 この過程で重視されるべき基本姿勢は、第一に、復興はあくまでも被災市民の権利救済を基本とし、これが平等に且実質的に保障されるべきである。

 第二に、復興のための街づくりは、ハードな建造物や施設の配置にとどまることなく、自然環境の保全と防災とを調整させ、被災地に住みそこに働く市民が主体となった、人間本位の街づくりが実現されるべきである。

 そのためには市民参加の実質的保障、高齢者、障害者、外国人等市民の具体的多様なニーズに答え得るソフトな施策の重視、地場産業、被災地地元の中小事業者の復興を重視すべきである。

 第三に、わが国の災害救済システムは、被災者の自助努力を原則としているが、これでは今回のような大規模災害における被災者の自立復興はとうてい望み得ないものであることを重大な教訓とし、国民の相互扶助を前提として、恒久的な災害共済制度の確立を図るべき視点が求められるべきである。

 更に被災地の自治体は、被災市民と共に、この国民的課題に取り組むこと、及び国の本来的責務としての災害復旧、復興への予算措置の拡充が図られることを求め、復興のための財政的基盤のより充実を図るべきである。

 ガイドラインの「はじめに」として指摘されている項及びガイドラインの全体の論調を見るに、第一、第二の点については、一応抽象的理念としては同趣旨の指摘があるが、平等な権利の救済という視点が明確でなく、第三の点については明確な指摘が十分されているとはいえない。

 更にガイドラインに指摘された基本姿勢あるいは理念は、抽象的にはこれを是とするものであっても、要はこの理念の実現過程における具体化の課題でどうするかが重要である。

 このガイドラインは、性質上、抽象的、全般的な復旧復興に向けての方針、方向性を定めるにとどまるものであるならば、より重要なことは、この具体化の過程でいかに被災者の権利救済が図られるか、街づくりはいかに実現されるか等の点につき、引き続き恒常的に検証されなければならない。

2.復興の基本理念に関し

(提言1)

 今回の震災の経験と教訓をふまえた先駆的な防災モデル都市を実現するにつき、今回の震災の中で何を経験として学び、何を教訓として導くかを具体的に示し、施策の中にこれが反映されるべきである。

 ガイドラインの第1節、復興の基本理念の中で、「機能的で高度に発達した近代都市が、想像を超える自然の力の前でいかに脆弱な一面をもつかを私たちに思い知らせた・・・私たちはこの教訓を真摯に受け止め、都市の機能性の確保を図りつつ、安全でゆとりをもった災害に強い街づくりを進めていかなければならない」としている。
又「今回の震災の経験と教訓をふまえ、先駆的な防災モデル都市として、世界中の都市の模範となる復興・再生を成し遂げる」とする。

 ガイドラインにおいては、災害に強い都市づくり、防災モデル都市となるために、具体的に今回の震災からどのような経験を重視し、教訓を受けとめているかを見るに、交通ネットワークの壊滅的打撃の教訓により交通ネットワークの整備を図るということ、ライフライン寸断の教訓からライフラインネットワークの整備を図る防災力の強い都市づくりのため、防災都市基盤の骨格形成や防災生活圏の構想がだされている。

 しかし、具体的に見れば、ガイドラインの教訓の指摘には重大な欠落がある。例えば、都市間交通網の整備として、ポートアイランド、六甲アイランドへの交通アクセス手段の復興プランとしては、既存のライナーや大橋の早期復旧が指摘されているものの、本来この交通アクセス手段で足り得たのか否かという基本的な教訓は検討されていない。

 又、神戸港の埠頭の壊滅的被害や、六甲アイランド、ポートアイランドの大規模な液状化現象、地盤沈下等、海上の埋め立て都市地盤の安全性について、十分に検討されるべき必要性が生じているが、ガイドラインにおいてこの教訓は具体的に指摘されず、他方では、この点検もないまま、神戸空港の整備という、より大規模な海上都市地盤構想が推進されようとしている。

 少なくとも、海上都市地盤が恒久的な安全都市地盤たり得るのか否か、それが可能であるにはいかなる対策がとられるべきかについて、真摯な教訓の分析がまず必要であり、これが施策に生かされるべきである。

(提言2)

 事業や施策間の優先順位を考慮した方針をたて、且この優先順位を図る理念をどこにおくかについて、復興の基本方針にもりこまれるべきである。

 ガイドラインは、事業や施策の優先順位を十分考慮すべきことを指摘し、復興目標年次を2005年とし、特に緊急性の高い事業については、早期に重点的に実施し、効率的な神戸の復興を推進するとしている。

 然るに、ガイラインを見る限り、インナーシティ地域における環境改善及び防災性を高めることは最重要課題であるとし、1日も早い港湾の整備、交通ネットワークの整備等が指摘されており、それらがいずれも早期に取り組むべき課題であることはもとよりであるが、全体としては、具体的な事業、施策の優先順位が必ずしも明らかでない。

 ガイドラインは、その性質上、復興計画にとりあげるべきあらゆる項目を列挙しているが、あくまでも項目の併列的列挙にとどまる例が大半となっている。しかし、財政的な制約等を考慮すれば、事業や施策面に優先順位がどのように判断されるかが現実には極めて重要なこととなる。この優先順位を判断する場合の基本姿勢や、基本理念如何も重要であり、これが不十分であると、結局すぐれた目標が掲げられていても、実現しないまま年月を経過してしまう恐れなしとしない。

 この優先順位の検討は、現在神戸市においてもなされているところであるが、掲げられるべき優先順位の基本理念は次のように分析されるべきである。

 つまり、[1]被害が甚大で、市民の権利の救済、生活の復興、生存に不可欠の課題、
[2]被災者の困窮の度合いが深刻で且被災地の経済基盤の再興のために早期復興が特にのぞまれる課題、
[2]早期に計画的に対応をしておかないと、事後的には計画目的達成が不可能となる課題等の基準によって、優先の度合いが判断されるべきである。

[1]について見れば、市民の住宅の復興がこれにあたる。現在でも避難所での生活を余儀なくされている市民の生活の場の確保、仮設住宅の量的確保と人間らしい生活を維持するに足る生活環境の質的改善確保、恒久賃貸住宅の大量供給の実現等がこれにあたる。

[2]について見れば、インナーシティの地域復興も然りであり、大規模火災地域、大量家屋倒壊区域等、特に復興を促すべき地域の街づくり、港湾施設、ケミカルシューズ業界、酒造業界等壊滅的ともいえる被害を受けた商店街等、甚大な被害を受けて地元中小事業者への復興促進、助成事業等がこれにあたる。

[3]について見れば、防災都市基盤、防災生活圏の整備等防災に関するマスタープランの早期具体化と、各都市計画事業地域内外の街づくりの施策との調整プランの確定である。

ガイドラインでとりあげられた「防災軸構想」や「水とみどりのネットワーク構想」は、これが充実した内容で実現されるならば評価されるべき構想であるが、この実現にあたっては、個別の都市計画事業や、その他の街づくり施策事業の具体化の過程で、これらの事業計画決定や計画の実施に先立って、このマスタープランの確定と、用地確保の構想等を具体化しなければ、机上の空論になってしまうものである。今後これらの点の具体的な構想の現実化、具体化が必要である。

(提言3)

 大規模な災害においては、被災者の自助努力、被災地だけの負担で復興を図ることは本来不可能であり、国及び地方公共団体が、災害から国民の生命、身体、財産を守るべき責務があることを前提として、公的財源の被災者への無償供与的救済制度及び被災地内外の国民の相互扶助を前提とした国民災害共済制度の確立や災害復興基金制度を質量共に整備拡充する等、財源についての基本的方向性を明確に打ち出すべきである。

 ガイドラインにおいては、復興のための多大の財源が必要なことは前提にされつつも、「阪神・淡路大震災は、予想をはるかに超える規模の地震であり、それによって被った被害も甚大であったため、地域だけの負担で復興を図っていくことは困難であるといわざるを得ない」としつつ、「市としての最大限の努力をする一方で、引き続き国の税・財政上の強力な支援を求めていかなければならない」と極めて抽象的な視点が指摘されるにとどまる。

 その他にガイドラインの基本的理念あるいは目標別復興計画、市街地復興計画のいずれの章においても、財源確保と救済措置への財政支援の方針について基本的な視点が触れられていない。

 このたびの大震災は、未曾有の甚大な被害であることから、財源の確保と救済措置への財政支援は、根本的な発想の転換なくして実現がかなえられないというべきである。
従来の国及び地方公共団体の災害救済の視点は、被災者の自助努力を基本とするものであった。

 しかしここで被災者自らの自主的自立復興の努力の必要性を、被災者自らの自助努力を基本とすれば足りるとするかの如く誤った理解がされるべきでなく、国及び地方公共団体において、自力復興を資金的に支援する無償供与的な救済策を行なうべき方針が積極的に取り入れられるべきである。

 損壊家屋の解体撤去費用の公的負担は、一部その表れといえるが、この拡充と他の救済を要する課題への適用が図られるべきである。

 地方公共団体としては、かかる視点をもって、被災市民と共に更に国の施策を積極的に求めるべきである。

 自助努力によっては、大規模震災からの復興はなし得ないことは、既に雲仙普賢岳噴火災害あるいは北海道南西沖地震被害において実証されたことである。

 大規模災害では、被災地域だけの負担で復興を図ることは本来不可能とする教訓にたって、国民の相互扶助を前提とした恒久的な国民災害共済制度の整備が図られるべきである。ここで災害共済制度は、既に設置された災害復興基金制度と類似するが、その基本において、国や地方公共団体の公費のみでなく、被災地内外の全国民的な拠出基金も含め、且その資金規模も飛躍的に増大させることが検討されるべきである。

3.安全都市づくりビジョンについて

(提言4)

 自然との共生を図りながら、災害による被害を最小限にとどめる方策として、大規模公共施設等について「危険な場所をさける」観念の導入、ハードな防災とソフトな防災の全域的な調整の確保等広域的な防災街づくりを策定すること、防災情報の公開を保障し、地域防災計画の抜本的見直し等を重視して、被災地全域に安全な街づくりを平等に実現すべきである。

 ガイドラインが、神戸を災害を受けやすい地盤、地形的特性を有しているとして、自然と共生を図りながら、災害時において、被害を最小限にとどめ得る防災対策の必要性を指摘する。

 然るに、前記のとおり、過去の災害の教訓が必ずしも具体的に把握された結果として、方策が明確にされていない点、全域的な防災計画に係わるプラン(例えば水とみどりのネットワーク)が、個別の街づくり計画に先行して、具体的なプラン化が図られ、全体計画と個別計画の整合性が図られるべき点の他、以下の点が視点として重視されるべきである。

 第一に、個別の建造物、施設の耐震性の強化は当然の前提としつつも、活断層所在地、液状化の発生しやすい地盤等危険な場所、不安定地盤には、大規模施設、災害発生時に多大な被害が見込まれる施設(病院等)は避けるという観点にたって、街づくりのプランを検討すべきであり、開発行政等を運用すべきである。
このためには、兵庫県が実施しようとしている活断層調査データ等の相互利用を図り、十分な調査にもとづいたプランが策定される必要がある。

 第二に、防災計画は、市民の理解と参加によって実効性を有する側面がある。
この実現に向けて、市民への防災情報の公開が不可欠である。
又地域防災計画の見直しが指摘されているが、この見直しは 抜本的な対応をもって具体化されるべきである。

 更に、防災の為の安全都市基準は、被災地全域に平等に実現されることを目標とすべきである。
一定の都市計画事業の行なわれる地域とそうでない地域との間で格差がもたらされないようにすることが重要である。

4.市民のくらしの再興について

(提言5)

 住宅供給については、仮設住宅と恒久住宅の供給の調整を図り、居住者のニーズに配慮した質と量の確保が図られるべきである。

 被災市民の最も切実な課題は住宅である。
今なお神戸市においても3万人をこえる市民が避難所での生活を余儀なくされている。
仮設住宅も一時的な利用に止まらず、相当長期の日常生活を送る場所とせざるを得ない状況にある。

 他方では、被災者のニーズを考慮しない仮設住宅の建設もあり、遠くて不便で且劣悪な住環境として、被災市民から受けら入れられないケースも出ている。
仮にも遠隔地仮設住宅への入居を余儀なくされる場合の従前居住地付近への交通費負担の助成、夏場の空調等の住環境改善のニーズ、高齢者や障害者にとって段差のない移動に支障のない住宅のニーズ等、居住者のニーズへ配慮した供給の努力が更に継続されるべきである。

 加えて、並行して被災者向けの恒久的な公共住宅の供給も推進されるべきである。
又、神戸市、その他の自治体間で、仮設住宅あるいは恒久住宅等の居住環境条件に格差の生じないよう、平等実現のための自治体間調整も行なわれるべきである。

 公的賃貸住宅の供給は、賃料を被災者の従前賃料と対比して負担増加とならないようにする等、入居条件に関する支援を伴なう必要がある。ガイドラインにおいては、これら仮設住宅、恒久住宅の併行した供給の調整と、質・量についての具体的な施策が必ずしも明らかでない。

 又民間共同住宅の建築の支援の拡大や特定優良賃貸住宅制度についても、被災者は震災前の生計を変えず、又は悪化しているにもかかわらず、それを遙かにこえた水準での経済負担を求めるものであってはならず、援助の大幅な拡充を図らなければ、支援の実効性が低いものとなる。

 従前居住地にできる限り近いところに居住したいというニーズを尊重し、住宅の量的確保を図ると共に、低所得層の震災前の居住費負担から実質的な負担加重とならないよう、賃料の適正化及び差額賃料の補助等の措置も実現されるべきである。

 さらに今回の震災で、被害の集中した高齢者の暮しの保障について、とりわけ公共の特別養護老人ホームや老人保健施設の増設や、既設民間施設の増築についての公的援助の拡充が図られるべきである。

5.都市の産業の復興について

(提言6)

 経済復興の基本は、地元産業、事業者の保護、再生におかれるべきである。
 その為の街づくりとしては、例えば、地場産業や伝統文化の振興と一体となった商業施設の整備、さらには地域によっては「職」、「住」の共生しうる市街地の整備、開発など地域の特徴を生かしつつ、且広域的政策が計画されるべきである。
その限りにおいてガイドラインが示す新産業の誘致、育成、規制緩和等によるビジネスチャンス拡大への方針が、これまでの大企業による成長型都市政策を意図するものとならないよう厳しく検証されるべきである。

 ガイドラインによれば、産業活動の早期復旧や21世紀を展望した新産業の振興を求め、新産業の誘致、育成、規制緩和等によるビジネスチャンスの拡大を図るべきとしている。
又規制緩和は経済復興のために不可欠の重要な課題の一つと把えられている。

 然しながら、例えば今回地域全体あるいは大規模に被害を受けた市場や商店街も多いが、現在も復旧がままならず、あるいはようやく小規模の仮設店舗でまがりなりにも事業を再開したような弱小商業者が多数である。

 ケミカルシューズ業界、酒造業界をはじめ、業界全体として大きな被害を被った地場産業も多い。これら中小商業者、地場産業の復興を実現することは、最重要課題の一つである。

 又神戸の伝統的文化の振興と神戸の街のよき特徴と一体となった商業施設の整備復興、市街地の復興の過程でも「職」と「住」の共生した整備、復興を行なうことが活き活きとした街の再生につながるものである。

 従って、ガイドラインが示す新産業の誘致、育成、規制緩和等によるビジネスチャンス拡大への方針が、従来の大企業による成長型都市政策を意図するものにとどまる限り、被災地の産業の復興がかなえられないこととなり、この点の十分な検証が必要である。

6.神戸の魅力を再生する項について

(提言7)

 災害救助及び復興過程においては、国際人権規約A規約並びに災害救助法等に定められた国、地方公共団体の責務について、内外人平等の原則にたった取扱いが実現されるべきである。

 ガイドラインは、国際交流都市づくりの推進として、国際ボランティア文化交流センターの検討や外国人市民に対する生活支援の充実、外国人への情報提供等を指摘する。

 しかし、全体として、具体的な施策の中で、災害救助、復興過程において、内外人平等の原則の追求という視点が必ずしも明確でなく、且現実には日本国籍を有しないが故に行なわれる外国人に対する差別的取扱いが是正されていない面がある。

 今回の震災には、国際都市神戸に居住していた多数の外国人被災者を生み出したという特徴もある。
被災外国人も応急仮設住宅を含む施設利用、医療等の施策について通訳人の確保された実質的な保障が図られる必要がある。
しかし、超過滞在者であった外国人に対する応急医療の公費負担がされない等、本来災害救助の制度趣旨にそぐわない例も見られ、内外人平等取扱いの徹底しない問題点もある。
住宅確保や雇傭の機会確保について、依然残されている外国人への差別的取扱いを解消すべき方針が明らかにされ、真に国際都市として、その実を備えるべきである。

7.“協働のまちづくり”の推進について

(提言8)

 被災地の復興にあたっては、そこに居住し、あるいは働く市民本位の、安全で住みやすい街づくりを実現し、且この施策は都市計画上の各事業計画の対象地域の内外を区別せず、地域間格差を生じさせることなく、市民参加を実質的に実現すべきである。

 被災地の復興については、復興の主体はそこに住み、働く市民である。活きた街づくりは市民の生活等の再建をふまえ、市民本位で実現されなければならない。

 都市計画決定がされた地域では、今後の具体的な計画の実現過程で十分に住民意思の反映がはかられるべきであり、又今後都市計画事業が予定されていない広範な地域においても、悪質な地上げの監視や規制、被災者の土地売却や住宅建て替え等の要望への支援、防災のための街づくりについての市民の主体的なプラン実現のため、公的援助を伴う地域間格差を生じさせない対応が必要である。

 街づくりプランの策定過程では、各種専門家の英知の結集が必要である。
例えば、罹災都市借地借家臨時措置法等の震災に関する種々の特別措置法或いは都市計画法制、マンションの建て替え、管理に関する法制等の法律の解釈適用が、具体的な街づくりプランの方針を判断する上で常に避けられない問題となっている。

 建物を建て替えて街づくりを具体化しようとするには、建築技術等の指導が不可欠である。
土地境界の問題解決、税務問題、登記、不動産鑑定の問題等々、復興のための街づくりは、各種の専門家を加えた支援を得ながら実現することが必要となっている。
一定地域の市民が共通して専門家への助言、指導を求める場合、資金的援助を行なうこと、必要な行政情報について十分に情報公開を実現すること等、実質的な市民参加の援助が図られるべきである。
個々の被災市民の個別復興を図ると共に、これを被災地の街づくりプランにかなうものとするという公益性から見ても、復興のためのまちづくりプランへの市民参加を実質保障するため、公的資金の援助は不可欠である。

 又、従来活動してきた街づくり協議会等の組織の活用を図る他、既存の組織でない任意の市民組織や団体に対しても必要な支援を行い、且具体的な地区毎に行政と市民との間で街づくりプランをめぐる個別協議機関を設置する等により、市民からはその要望や意見が反映され、行政からは全体的な施策や個別施策の実現に向けての市民の理解を得られる機会が実現されるべきである。

 更に、公共用地の取得や事業実施過程における私権制限について、正当な補償の要請にもとづき、適切な補償を行なうものとし、この充足が事業の促進につながるという視点をもって対応されるべきである。

(提言9)

 民間ボランティア活動の確保と支援のため、災害救助法等関係の法令並びに条例等の整備を行なうべきである。

 震災後自然発生的に多数の民間ボランティアが、被災者の救出や避難所やテント村等での被災者の生存の維持と生活再建への支援をおこなってきた。

 これは本来、行政が災害救助法にもとづいて、国及び地方公共団体の責務として行なうべき災害救助活動を、善意の民間人が肩代わりしたという本質を持っている。しかし、多くのボランティアは、活動が長期化した場合、自らの生活と両立し得ないという一面を有し、且支援活動過程で何らかの事故が発生した場合の責任の所在等の問題が生じ、活動が萎縮するという問題もあった。又ボランティア活動に従事した人々の個々の犠牲的負担は、何らこれに対する補償のないまま終わっている。

 大規模災害時には、行政の防災体制の抜本的見直しを図り、今回の震災から多くの教訓を導く必要があるが、その中で民間人によるボランティア活動についても、その現実の活動の必要性から見て、災害救助体制の一環に位置づけ、行政との連携、調整を図る機関の設置、最終的な責任主体を行政がもつものとしてこれを明確にすること、ボランティア活動中に生じる事故、被害に対する補償措置を図ること等の財政的負担を含む制度の整備が必要である。

(提言10)

広域的自治体間の防災ネットワークの早期確立と恒常的な体制の点検整備が図られるべきである。

 大規模災害の危急時において、被災地の自治体の他、近隣あるいは全国的な救助支援体制が不可避であり、このたびの震災においても、多くの不備を伴いながらもとりわけ人命救助、消防活動等にこの努力がされた。

 大規模災害時の復旧、復興は、被災地内の行政ニーズに、ひとり被災地の自治体のみでとうてい答えられるものでない。これは自明の理である。解体作業に伴なう粉塵、アスベスト被害等は今後長期にわたって二次的健康被害が懸念され、この十分な対策は広域的に図られる必要がある。然るに、とりわけ復興過程での廃棄物廃材の野焼き問題、建物解体によるガレキの処理等について、その処理負担の分散という基本が不可避であるが必ずしもこれらの問題について、広域的な自治体間の協力調整機能が働いているとはいえない。

 各自治体は、かかる危急時にあって、自治体間の相互扶助として、行政ニーズを充分に分かち合うという対応が更に徹底してとられる必要がある。又これは恒常的に自治体間で想定された災害に対する対策検討と相互理解とを基礎とする必要がある。

(提言11)

 長期の復興計画実施過程で、学識経験者、市民、各界代表者等の意見を反映し、施策の協議調整に寄与し得る審議機関を今後共継続的に設置すべきである。
更に街づくりの問題について、行政と市民間の調整を要する場合、個別地域における個別問題について行政と市民間の協議調整を図り得る“街づくり紛争調整協議会”(仮称)を設置して解決にあたるべきである。

 当審議会が答申後、機構が解消される予定ということであるが、今後、復興のための街づくりは、5年、10年という長期のサイクルの中で未経験の多くの課題に取り組む必要がある。
従って今後の復興計画が概ね実施完了にいたるまで、行政、学識経験者、市民、各界代表者が対等、オープンに意見交換し、要望や提言を行い、これが施策にいかされるよう、恒常的な機関として設置されるべきである。

 又個別の計画実施過程で行政と市民の利害調整を図る必要が生じた場合に備え、紛争処理機関が設置されるべきである。