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裁判手続に関する執務参考資料(民事・行政事件関係)

1995年(平成7年)3月

神戸弁護士会

目次

1 震災により期間を遵守できない場合の措置 -------- 4頁

1) 総論
2) 上訴期間・即時抗告期間・再審期間・支払命令の異議の申立期間・支払命令の仮執行宣言後の異議申立期間・手形判決の異議申立期間・除権判決に対する不服の訴え申立期間・民事調停の調停に代わる決定の異議申立期間・執行抗告期間・破産決定に対する抗告期間・行政取消訴訟の出訴期間
3) 訴状の補正期間・配当要求の終期・代金納付期限・期間入札の期間
4) その他
支払命令の仮執行宣言申立期間を遵守できない場合・調停期日に出頭できない場合

2 当事者が死亡した場合の措置 -------------- 6頁

1) 訴訟係属の場合
2) 民事調停・借地非訟の場合
3) 民事執行の場合
[1] 強制執行開始後に債権者が死亡した場合
[2] 強制執行開始後に債務者が死亡した場合
[3] 債権差押えの申立てをしたいが、地震のため債務者が行方不明になった場合
4) 破産手続の場合
[1] 破産の申立て又は破産宣告後債務者が死亡した場合
[2] 破産の申立て又は破産宣告後破産管財人が死亡した場合

3 目的物が滅失・毀損した場合の措置 ----------- 8頁

1) 民事執行の場合 ------------------- 8頁
ア 不動産執行
[1] 不動産競売の申立てをしている建物が滅失した場合
[2] 最低売却価格決定時点で不動産競売の申立てをしている建物が毀損した場合
[3] 買い受けの申出をした又は売却許可を受けた建物が滅失、毀損した場合
[4] 代金納付後、不動産が滅失、毀損した場合
[5] 不動産競売について、入札期間中、入札した建物が地震でつぶれた場合
[6] 不動産競売の差押えを受けている建物が半壊した時、安全のために取り壊しをしたいが問題ないか。
イ 動産執行
[1] 差押えされている動産が、焼失により滅失した場合(動産仮差押の場合も同じ)
[2] 被差押動産(機械等)が半壊した場合,安全の為取り壊しや除去はできるか。
ウ その他
[1] 執行官保管の仮処分につき、執行の目的物が滅失した場合
[2] 執行官保管の仮処分につき、目的物は存在するが、公示書が損失している場合
[3] 建物明渡し執行の際、執行官に○月○日までに明渡す旨約束したが、地震のため転居予定建物が壊れてしまい、約束の期日までに転居できなくなった場合
2) 破産手続の場合 ------------------- 10頁
[1] 破産者の住居が損壊するなどして住めなくなった場合
[2] 債権届出の際提出すべき証拠書類が滅失した場合

4 その他 ------------------------ 11頁

1) 民事訴訟一般 -------------------- 11頁
[1] 適時に裁判所に訴えの提起など、時効の中断措置がとれない場合
[2] 書証の原本や準備書面の写し等が滅失した場合
[3] 判決正本、和解調書正本、仮執行宣言付支払命令正本、証明書などが滅失した場合
2) 民事調停関係 -------------------- 11頁
[1] 神戸市居住者が地震のため大阪に避難した場合、調停の申立てはどこにするか。
3) 民事執行関係 -------------------- 12頁
[1] 給料の差押えを受けているが地震のため給料全額を使いたい場合どうすればよいか。
4) 労働事件関係 -------------------- 12頁
[1] 勤務先の工場が全壊して働けない場合、給料は支払ってもらえるのか。
[2] 従業員の解雇もあり得るのか。
[3] 会社で勤務中に地震に遭い怪我をした場合、労災保険の適用を受けられるか。
[4] 勤務先で地震の後始末をしている最中や、同僚の救出作業に参加している最中に怪我をした場合
5) 災害対策基本法関係 ----------------- 13頁 住居や家財道具がどうなったか戻って見てきたいが警戒区域内なので立ち入れないといわれた。どうすればよいか。

1 震災により期間を遵守できない場合の措置

1) 総論

 不変期間を除き、法定期間は裁判所が、また裁定期間はこれを定めた裁判機関が伸縮することができるのが原則である(民事訴訟法158条)。 
これに対し、不変期間は、裁判所が伸縮できない反面、当事者がその責めに帰しえない事由で不変期間を遵守できなかった時は、その事由が止んだ時点から一週間以内に行為をすることで追完が認められる(同159条1項)。 
関東大震災による通信の途絶は上記の責めに帰しえない事由にあたるとの判例がある(大判大13・6・13新聞2335号16頁)。

2) 不変期間

 不変期間としては,次のようなものが考えられる。
・上訴期間(民事訴訟法336条、396条)
・即時抗告期間(同415条)
・再審期間(同424条)
・支払命令の異議申立期間(同438条)
なお、支払命令に対する異議申立については、支払命令送達の日から2週間以内に異議を述べないと債権者の申立により仮執行宣言が付され、それにより強制執行を受けるおそれがあるが、仮執行宣言付支払命令送達の日から2週間以内に異議を述べ、通常の訴訟手続で争うことはできるので(同438条)、これに付加して執行停止を求めることもできる(同512条)。
・支払命令の仮執行宣言後の異議申立期間(同440条)
・手形訴訟に対する異議申立期間(同451条)
・除権判決に対する不服の訴え申立期間(同775条)
・民事調停に代わる決定の異議申立期間(民事調停法10条、非訟事件手続法10条)
・執行抗告期間(民事執行法20条)
・破産決定に対する抗告期間(破産法108条)
・行政取消訴訟の出訴期間(行政事件訴訟法14条2項、民事訴訟法158条1項但書)
以上のような不変期間を遵守できない場合は、前記のとおり、その事由が止んだ後一週間以内に行為をすることで追完をなしうる(民事訴訟法159条)と考えられる。

3) 不変期間ではない期間

不変期間にあたらない例には、次のようなものがある。
・訴状の補正期間(民事訴訟法第228条)
・民事執行 配当要求の終期(民事執行法20条)
代金納付期限
期間入札の期間
・破産債権届出期間(破産法108条)
以上のような期間を遵守できない場合は、前記のとおり、これを定めた裁判所その他の裁判機関が期間を伸縮することができる(民事訴訟法158条1又は3項)ので、受訴裁判所に対して、期間の伸長を申し立てることが考えられる。

4) その他

[1] 支払命令の仮執行宣言の申立期間を遵守できない場合
支払命令送達の日から44日内に仮執行宣言の申立てがない時は、支払命令は失効する(民事訴訟法438条、439条)。
しかし、失効しても、もう一度支払命令を申し立てることができる。
[2] 調停期日に出頭できない場合
弁護士であれば、本人出頭主義(民事調停規則8条1項本文)の例外として出頭代理が許される。
しかし、弁護士でない者を代理人とするには、「やむをえない事由」(同8条1項但書)がある場合で調停委員会の許可があることが条件となる(同8条2項)。
地震に伴う右「やむをえない事由」は、本人の怪我や勤務先の都合等の事情が考えられるが、代理人が本人の診断書や勤務先の証明書を持参する方が望ましい。
許可は黙示の許可でも良い(東京地判昭和30・11・10調停時報12・5)。
本人と代理人のいずれもが正当な理由なく出頭しなかった場合、五万円以下の過料の制裁があり得る(民事調停法34条)。

2 当事者が死亡した場合等の措置

1) 訴訟係属の場合

 訴訟手続は相続人や相続財産管理人に承継される(当然承継)。
この場合、訴訟手続は原則として中断するが(民事訴訟法218条1項)、訴訟代理人がいる場合は中断しない(同213条)。

2) 民事調停・借地非訟の場合

1)と同様になると考えられる。

3) 民事執行の場合

[1] 強制執行開始後に債権者が死亡した場合
承継人が自己のために強制執行の続行を求めるためには、承継執行文の付された債務名義の正本を執行機関に提出しなければならない(民事執行規則22条)。
[2] 強制執行開始後に債務者が死亡した場合
そのまま続行することができる(民事執行法41条1項)。
しかし、執行手続中に債務者に対し送達等を要する場合があれば、
これらは相続人に対してしなければならない。
相続人の所在不明等で手続を続行させることができないときは、債権者は執行裁判所に特別代理人の選任を申立てることができる(同条2項)。
[3] 債権差押えの申立てをしたいが、地震のため債務者が行方不明になった場合
執行裁判所の判断によるが、公示送達により差押命令正本を送達して、債権を差し押さえることもできるので、公示送達に必要な書類を添付して申し立てることが考えられる。

4) 破産手続の場合

[1] 破産の申立て又は破産宣告後債務者が死亡した場合
破産手続は相続財産に対して続行されると考えられる(破産法130条)。
[2] 破産の申立て又は破産宣告後破産管財人が死亡した場合
後任の管財人を選任してもらい、前任の管財人の任務終了による計算報告集会を招集する(破産法168条)。

3 目的物が滅失・毀損した場合の措置

1) 民事執行の場合

ア 不動産執行
[1] 不動産競売の申立てをしている建物が滅失した場合
競売手続の取消(民事執行法53条)が考えられる。
[2] 最低売却価格が決定した時点で不動産競売の申立てをしている建物が毀損した場合
執行裁判所の判断により最低売却価格の変更(民事執行法60条2項)が考えられる。
[3] 買い受けの申出をした又は売却許可を受けた建物が滅失、毀損した場合
売却許可決定前は売却不許可の申出が考えられ、売却許可決定後、代金納付までの間は、売却許可の取消の申立てをすることができる(民事執行法75条1項)。
[4] 代金納付後、不動産が滅失、毀損した場合
買受人は、代金を納付した時に不動産の所有権を取得する(民事執行法79条)ので、滅失・毀損による損害は買受人の負担となる。
[5] 不動産競売について、入札期間中、入札した建物が地震でつぶれた場合
入札の取消はできない(民事執行規則38条6項)。執行裁判所に、競売手続の取消(民事執行法53条)、または売却不許可の申出や売却許可の取消の申立て(同75条1項)をする。
[6] 不動産競売の差押えを受けている建物が半壊した時、安全のために取り壊しをしたいが問題ないか。
差押えがされている間は、取り壊すことはできない。ただし、建物の損壊の程度によっては、執行裁判所の判断により競売手続の取消(民事執行法53条)が考えられる。
イ 動産執行
[1] 差押えされている動産が、焼失により滅失した場合(動産仮差押の場合も同じ)
執行官が職権で差押物の点検を行う(民事執行法規則108条)ので、執行官に連絡することが望ましい。
[2] 差押えを受けている動産(機械など)が半壊した場合,安全の為取り壊しや除去はできるか。
執行官は,職権で差押え物の点検を行い(民事執行規則108条)、売却の見込みが無い状態にまで損壊していれば、差押えを取り消すことがある。
緊急の場合は、執行官に連絡すべである。
ウ その他
[1] 執行官保管の仮処分につき、執行の目的物が滅失した場合
執行官が職権で差押物の点検を行う(民事執行法規則108条)ので、執行官に連絡することが望ましい。
[2] 執行官保管の仮処分につき、目的物は存在するが、公示書が損失している場合 点検時に執行官が再度貼付することとなるので、執行官に連絡することが望ましい。
[3] 以前に執行官が建物の明け渡しの執行に来た際、○月○日までに明け渡す旨約束したが、地震のため転居する予定であったところが壊れてしまい、約束の期日までに転居できなくなった場合
法律上は、即時明け渡すことが必要だが、次回執行に行く執行官の判断次第では明け渡しを求めている人に事情を説明して、猶予を願い出ることが考えられる。

2) 破産手続の場合

[1] 破産者の住居が損壊するなどして住めなくなった場合
住居の移転には裁判所の許可が必要なので(破産法147条)、移転先が決まったら管財人と相談のうえ、許可の申立てをする必要がある。
[2] 債権届出の際提出すべき証拠書類が滅失した場合
滅失した旨を付記して債権届出を行っておくべきである。
そうすれば、債権調査期日において債権調査が行われるものと思われる。
また、届け出債権者は調査期日に出頭して右旨などの意見を述べることが出来る(破産法232条2項)。

4  その他

1) 民事訴訟一般

[1] 適時に裁判所に訴えの提起など、時効の中断措置がとれない場合
天災その他避けることのできない事変のため時効中断することができない場合は、その妨害の止んだ時から2週間内は時効は完成しない(民法161条)。
[2] 書証の原本や準備書面の写し等が滅失した場合
裁判所に謄本の請求をしたり、裁判所にある訴訟記録を謄写することによって(民事訴訟法151条3項)、事実上再製することができる。
[3] 判決正本、和解調書正本、仮執行宣言付支払命令正本、証明書などが滅失した場合
裁判所に交付を請求できる(民事訴訟法151条3項)。

2) 民事調停関係

[1] 神戸市に住んでいたが地震のため避難して大阪に住んでいるが、調停の申立てはどこにすればよいか。
調停は原則として、相手方の住所等の所在地を管轄する簡易裁判所に申立てる(民事調停法3条)。
宅地又は建物の貸借その他の利用関係の紛争に関する調停は、紛争の目的となっている宅地等の所在地を管轄する簡易裁判所に申し立てることもできる。
もっとも、調停の申立てを受けた裁判所が事件の処理に特に必要があると認めるときは、その裁判所で調停することができる(民事調停法4条1項但書)から、大阪で調停をしたいのであれば、とりあえず大阪の簡易裁判所に相談すべきである。

3) 民事執行関係

[1] 給料の差押えを受けているが地震のため給料全額を使いたい場合どうすればよいか。
執行裁判所に差押禁止の範囲の変更を申し立てることが考えられる(民事執行法153条)。

4) 労働事件関係

[1] 勤務先の工場が全壊して働けない場合、給料は支払ってもらえるのか。
既に働いた分の給料は当然支払ってもらえる。
しかし、地震によって止むを得ず休業し、その結果労働者が働けなくなった場合には、給料を支払ってもらえない可能性がある(民法536条1項、労働基準法26条)。
なお、激甚災害地域に指定された地域においては、災害による止むを得ない事業の休止、廃止の場合、失業給付を受けられる可能性がある(激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律25条)。
[2] 従業員の解雇もあり得るのか。
天災事変その他やむを得ない理由があって事業の継続が不可能となった場合、解雇が認められる可能性があるが(労働基準法19条、20条)、事業の継続が不可能となったといえるかどうかは具体的事情次第である。
[3] 会社の事務所で勤務中に地震に遭い怪我をした場合、労災保険の適用を受けられるか。
地震そのものは、会社の業務とは関係のない偶然の事柄なので、当然には業務上の災害ではないが、業務の内容や性質、作業条件等によっては、業務上の災害と言える場合もある。
[4] 勤務先で地震の後始末をしている最中や、同僚の救出作業に参加している最中に怪我をした場合
[3]と同様、業務上の災害と言えるかどうかが問題となるが、一般的には、上司の命令で従事していた場合や、具体的な指示命令がなくとも会社の従業員として当然行うべき事柄であったと言えれば、業務上の災害として認められる可能性がある。

5) 災害対策基本法関係

[1] 住居や家財道具がどうなったか戻って見てきたいが警戒区域内なので立ち入れないといわれた。
どうすればよいか。
災害が発生したとき、人の生命又は身体に対する危険を防止するため特に必要があると認める場合には、市町村長は、警戒区域を設定し、災害応急対策に従事する者以外の者に対してその区域への立ち入りを制限したり、禁止したりすることができるとされている。
(災害対策基本法63条1項、なお、同条2項によれば、場合によっては警察官が職権で行うこともある。)
よって、まず、市町村に問い合わせるべきである。