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災害被災者に対する公的支援法案についての要望書

衆議院議長 殿
衆議院議員 各位

要望の趣旨

 阪神・淡路大震災被災者にも適用され、その生活再建・事業再建と社会的自立を促進・保障するに足りる内容の「災害被災者生活再建支援法」の制定を要望します。

要望の理由

日本国憲法制定施行後最大の自然災害といわれる阪神・淡路大震災から既に3年数カ月が経過しました。

 この間、全国各地から1700億円を超える義援金が寄せられるとともに、国及び地元自治体による被災地復興事業をはじめ、既存の法律・条例などに基づく各種被災者支援策も施され、また多数のボランティアの方々による被災者の生活支援活動もなされてきました。

 当会においても、震災直後から、会館の避難所提供、震災被災者に対する無料法律相談活動などにはじまり、震災復興対策本部を設立しての・罹災都市借地借家臨時処理法の適正運用を通じての借地・借家問題の適正解決、区分所有法などの適正運用を通じてのマンション被災者間の問題の適正解決、土地区画整理法や都市再開発法などによる街づくり・被災市街地再建に向けての適正処理、などの諸活動を通じて、微力ながら被災地と被災者の生活・事業の再建に資するための努力を続けてきました。

 また、国などの特別補助を受けた財団法人法律扶助協会の阪神・淡路大震災被災者法律援助事業を通じて、当会並びに多くの当会会員が、個々の被災者の法的権利の確保や紛争解決に助力してきました。

 しかし残念ながら、これら各方面の努力にもかかわらず、仮設住宅におけるいわゆる「孤独死」だけでもすでに200名を優に超えるなど、震災による犠牲者の数はその後も増えつづけており、また破産や倒産という被災者の生活・事業破綻も増大しており、今後も更に増加し続けるのではないかと予想されています。このように被災地や被災者の経済状況は、なお深刻です。

 こうしたなかで、被災地の住民を中心にして災害被災者の生活・事業再建への新たな公的支援を求める運動が粘り強く続けられ、大きく世論と国会を動かした結果、市民法案を立法化した形の災害被災者に対する公的支援法案が国会に発議されました。
昨年5月に超党派の議員で提案された「災害弔慰金の支給等に関する法律」の一部を改正する形の恒久支援法案、野党3党を中心に昨年12月に提案された阪神・淡路大震災被災者に限っての特別法としての「阪神・淡路大震災の被災者に対する支援に関する法律案」などです。
これらの法案化によって、災害被災者に対する国による公的支援の一層の必要性がさらに広く国民各層に知れわたることとなり、被災地の運動と世論を一層盛り上げ、勇気づけたことは間違いなく、これらの法案推進に尽力された関係各位・各議員に対し、当会としても敬意を表するものです。

 このような各方面の努力の結果、去る4月24日、参議院は、自然災害による家屋全壊被災世帯に対する「被災者生活再建支援法案」を可決しました。
その内容は、・被災前年の世帯収入が500万円以下の世帯に対して上限100万円、世帯主が45歳以上で世帯収入700万円以下の世帯、世帯主が60歳以上ないし要援護世帯で世帯収入800万円以下の世帯に対して上限50万円、という「生活再建支援金」を支給するもので、今後わが国で発生する自然災害のうち政令で指定されたものすべてに適用される恒久法案です。

 しかし残念なことに、この法案では、被災地住民や当会も望んでいた阪神・淡路大震災被災者への遡及適用は盛り込まれていません。
参議院では、「阪神・淡路大震災の被災者に対し、一日も早く恒久住宅に入居し、生活再建ができるよう、被災地の復興基金事業として実施されている生活再建支援金などを含めて、本法の生活支援金に概ね相当する程度の支援措置が講じられるよう国は必要な措置を講ずること」とする附帯決議がなされていますが、この決議どおり国や地元自治体が新たな支援策を実施したとしても、その対象となるのは、ほとんどが従来の支援事業との差額支給であり、新たな支給対象者もわずか数万世帯にとどまります。

 そもそも、この被災者の生活再建に対する公的支援を求める運動や世論は、参議院の附帯決議が指摘するような既に実施されている事業による支援策では被災者の生活・事業再建や街の復興にとって極めて不十分であり、かつそれまでの法制度の範囲内での国・自治体の努力だけでは期待できないとして、新たな公的支援法の制定等の運動に取り組んできたものでありますから、阪神・淡路大震災被災者に適用のない法律では何ともやるせないものがあるばかりか、国や自治体独自の努力だけでは期待できないものとして、被災市民や国会議員らによって立案された法案が、あとは国や自治体の努力に期待するというのも矛盾する側面があるといわざるをえません。

 阪神・淡路大震災の被災地では、仮設住宅住民の生活再建は緊急の課題であることは間違いありませんが、被災者はそればかりではありません。
全半壊46万世帯をはじめ被災地の多数の住民が、被災者の生活・事業再建の遅れ、被災地復興の遅れ、これらによる被災地の経済復興の遅れ・停滞などによる二次被害にも苦しんでいる現状です。
また、震災による被害や二次被害に苦しんでいるのは、低所得者層だけではなく、中間所得者層も、二重ローンの問題をはじめとする種々の経済的負担増などの諸問題を抱えています。

 これらの被災者の社会的自立を促進し、その生活再建や事業再建を進めるためには、公的な経済的支援がどうしても必要です。
そしてそれは、被災地の経済復興にも資することは間違いありません。
むしろ、被災者の救済なくして被災地経済全体の復興はありえないとさえいえます。また、従来阪神間の被災地が日本経済全体に果たしてきた役割からみて、被災地の経済的復興がわが国の経済全体の活性化につながることも明らかです。
公的資金を投入した被災者に対する充実した経済支援は、単なる被災者個人に対する救済にとどまらず、被災地経済全体の復興をめざすという公共性があるということも重要です。

 そこで当会としては、ここまで法案化に尽力された参議院議員各位のご努力を多としつつも、法案の回付を受けた衆議院におかれては、以上の被災者および被災地経済の実情に、より一層のご理解をいただき、法案の阪神・淡路大震災への適用を明確にしていただくとともに、その内容を被災者の生活再建・事業再建と社会的自立の促進・保障のためにより実効性のあるものに充実させていただくこと、具体的には、住宅の全壊世帯だけでなく、店舗を含めた建物の全半壊世帯までを対象とし支給金額も増額するなど、生活再建支援金の支給対象や支給金額の増大、被災前年の所得のみにとらわれず、被災後の現在の生活実態に着目できるような所得制限・年齢制限などの支給要件の緩和、国の補助割合の増額、などの改善措置を要請する次第です。

 以上のとおり、要望します。

1998年(平成10年)5月7日

神戸弁護士会 会長 小越 芳保